大腿四頭筋腱断裂は、膝伸展機構損傷(膝を伸ばす作用)のうち4.3%と比較的少ない外傷で、中高年の男性に多くみられます。慢性腎炎、透析、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、糖尿病、痛風、副甲状腺機能亢進症等の基礎疾患による腱の脆弱化が関与していることが多く、肥満や膝蓋骨上縁の骨棘(膝のお皿の余分な骨形成)や大腿四頭筋内の石灰化が危険因子と報告されています。筋腹部(筋肉の太いところ)や筋腱移行部(筋肉の太いところから細いところに移るところ)で断裂することが多く、基礎疾患があると小さな怪我でも断裂することがあります。
治療は断裂したところを縫合して補強する手術が必要で、基礎疾患により腱が脆弱な場合には再建を行うこともあります。手術は膝蓋骨(膝のお皿)に穴を開けて糸を通し、大腿四頭筋を引き寄せて固定するのが一般的です。手術後のリハビリテーションでは膝関節の屈曲(膝を曲げる動き)や荷重(膝にかける重さ)に制限を設ける必要がありますが、その内容は報告によって様々で統一した方法は決まっていません。最近当院で治療した症例では、手術後3週から膝関節を曲げる運動を徐々に開始し荷重は装具を装用することで制限はせず、補助具なしで歩行が可能となり普段の生活や仕事に支障なく復帰できました。
2025年6月
整形外科 中田 浩史